「過去の自分」から逃げない。「過去の自分」こそ潜在能力を発揮させる宝庫
久瑠あさ美のメンタルトレーニング実況中継【第15回・最終回】
■感情に蓋をしてきた~過去の亡霊と向き合う~「半端の美学」が面白さを創る
久瑠:(ワークシートを読みながら)「交際相手が浮気をし、さらに別れを切り出されたとき、三日三晩泣き、それからケロッとしてきれいさっぱり清算した」。
……いやあ、重症ですね。これはちょっと、カウンセリングが必要です(笑)。
これは、傷ついて…それを、ガードしてしまって…覆い隠そうとしてしまっている。結構な闇が見えます。
甲斐荘:そうですね。頭でそう言って切り替えようとした…(うう、頭が疼く……)
久瑠:「ケロッとしてきれいさっぱり清算した」って、嘘じゃないですか。私が友達だったら、「嘘ついてんじゃ、ねーよ」って言いますよ。そこまで人を好きになったことを、なぜ清算する?ってことですよ。
そういった在り方が、だんだん「自分らしさ」に繋がってしまって、結局、「別れを切り出されたときの自分」というものを押し込めてしまう。そして「縁がなかった」ことにした。関心を絶った。
それは結果的に、自分の感情を粗末に扱っているんです。それが、「自分が消えた理由」です。こうやって、いろんなことを全部切ってきているんですよ。
甲斐荘:うん(本当にそうだ…行き場のない想いがあのとき生き埋めされていたということか……)。
久瑠:これは「過去を見るワーク」ではなくて、「未来を見るワーク」でしたよね。それでもやっぱりこれを書いてきたたってことは、もう、これが答えなんです。
だからどんなに「理想」を語ろうとしても、甲斐荘さん自身の過去が亡霊のように出てきてしまうんです。なぜかというと、自分の心をちゃんと葬っていないんです。「自分が無い」のではなくて、「心を消して」きているんです。土をかぶせてしまってきて、浮かばれていない感情がいっぱいある。
だから、いつもそれを書きたくて、表に出たくて、「理想」のところに出てきてしまっている。「違うよな」と分かっていて、それでも書いた……つまり書きたいんです。「自分への戒め感」みたいなものに押し込められた感情が、表に出たがっているんです。
甲斐荘:なんかと言いますか……本当にそうですよね。僕の書いたシートには、「理想の自分」というよりは、この書いてある言葉自体は、ただの「自罰リスト」ですよね。
久瑠:「もう、そうしたくない」という感情が現れています。言葉では「きれいさっぱり清算した」と書いてありますけど、「そうしたいんじゃなかった」と訴えている。
甲斐荘:まさにそうですよね。「本当は俺は、これをやりたいんだリスト」ですよね。
久瑠:そうです。「行き場を失った心のリスト」です。1行でもうそれが見えます。受け入れようとしたけど、受け入れられないから涙が出て、三日三晩泣いて。彼女に拒絶されたってことで、もう傷ついているんです。滅多打ちされているんですよ。でも、好きだった感情っていうのは、そんなに簡単に切り替わらないじゃないですか。だから、自然現象として涙が出る。それが生きているっていうことでしょう?!
それだからこそ、生身の自分が持った感情を、「ケロッとしてきれいさっぱり清算した」と書いてしまう。これが一つの答えですよね。
そこに気づけることが、まずスタートなんです。課題に向き合えなかったことは、逆に言うと、また一つ見えてきた…もう一段上がるためのステップだと思うんです。
だから、越えられない壁は絶対ない…今日のこのワークで、越えられる。このワークをやったからこそ、「課題はできなかったけど、でもなんでなんだろう?」とその文字や言葉にはならなかった何かを大切にしていく作業そうやって、自分の過去と“いま” …そして、何よりこの先の未来を自ら動かしていくことになる…
だから、甲斐荘さんが「自分には、何が面白いか分からない」と仰っていたのはすごく正直な部分だし、このワークがその道筋を導き出してくれているんです。
甲斐荘:(絶句。深くうなだれる…)
鈴木:(甲斐荘さんの潜在意識が動かされているぞ。これが久瑠先生の「心の業」か!)
甲斐荘:(沈黙。うつむく……顔を上げ、思いを巡らせる…)
鈴木:(甲斐荘さんの表情が、心なしか憑き物が落ちた感じがする。これは、もしかしたらすごい瞬間に立ち会っているんじゃないか?)
甲斐荘:結構、Have toで自分をがんじがらめに縛ってるんですね。
久瑠:そして、Have toをMustに変えることばかりがうまくなるわけですよね。
甲斐荘:(うっ。)そうですね。
久瑠:まるでWantのように振舞わなければならない。でも、前提がHave toなんですよ。
甲斐荘:「Wantを持ってはいけない」みたいになっているんでしょうね。
久瑠:「Wantを持つとろくな目に遭わない」ぐらいに言ってもいいかもしれません。
甲斐荘:(図星のため、絶句)
鈴木:(甲斐荘さんの表情は苦しそうだけど、心なしか爽やかにも見える。無意識のトレーニングだから、自意識には混乱だけが見えていて、自分の変化にはまだ気がついていないんだな)
久瑠:「中途半端に終わるぐらいならやらないほうがいい」みたいなことが強いんですけれど、だったら「半端の美学」みたいなものを自ら創ればいいんですよ。
もちろん仕事においては、「役割をちゃんとこなす」という甲斐荘さんの今の在り方で全然問題ないと思います。
「楽しむ」にもフォーカスを向ければ良い。「今からステージに立ちたいんです」みたいな話ではないんだから、人生を楽しむという意味では、「今からやればいい」ってことですよね。「音楽も、自分よりもっとうまい人がやればいい」って話をしていましたよね(本連載第11回)。それも私だったら「何、びびっちゃってんの?」って言うと思います。自分自身の可能性を勝手に決めて、何から逃げてるのか。そこが解決されるともしかしたらステージに立っていたかもしれないわけで…
自分よりうまい人がいたときに、大概の人は筆を置いてしまうんですけれど、本当に大切なのは「どれだけ好きか」「どれだけ夢中なのか」だと思うんです。そこで冷静さを持ってしまうと、計算をしてしまって「やらないほうがいい」となってしまう。
でも、決められたフレームからはみ出している面白さに繋がって初めて、予定調和じゃない人生になるんです。
POINT
◎弔ってもらえなかった過去の自分自身に、このワークを通じて気がつきました